1875 【吉村外喜雄のなんだかんだ】
「分断・混迷する米国」
米国社会に亀裂が走っている。「自国第一」を掲げる保守
派と進歩派の対立は、南北戦争以来といわれるほど根深い。
11月の大統領選は、大接戦の末空前の混乱を招いた。
18世紀末英国から独立した移民国家・多民族国家の米国
は、自由と民主主義の理想をもとに、社会を統合してきた。
第一次大戦後工業化をおし進めた米国。
大国の基盤が築かれ、国民意識や愛国心が根付いていった。
しかし現実は「自由と平和」の理想にはほど遠く、
約62万人の死者を出した南北戦争は、南北に深い遺恨を
残し、奴隷解放後も人種差別は続いた。
大恐慌を乗り越え、第二次大戦をへて、米国は超大国に
なった。1960年代に入ると、ベトナム戦争に対する
反戦、公民権運動が活発化する。
進歩派の考えが浸透し、改めて米国人とは何か、合衆国
とは何かが問われた。キューバ危機やケネディ暗殺、
頻発する黒人暴動などで、社会の亀裂が広がっていった。
より大きな自由、平等を求める運動と、古い価値観が激し
く衝突した。古い移民である自作農には、合衆国を築いた
自負があり、19世紀後半から流入した新移民がつくった
大都会の考え方を嫌った。
「古い顔」が示す敵意は、万事うまくいっているときは
隠れている。だが、一旦うまくいかなくなると、怒りを
爆発させる。
大金持ちか、カトリック教会か、労働ボスか、インテリか、
共産主義者か、どこかの外国に・・怒りを注ぎかける。
70~80年代は、新旧の衝突は沈静化するが、
90年代以降、冷戦終結などで内向き傾向が強まると、
徐々に表面に現れ、保守派と進歩派の分裂が広がった。
中南米やアジア移民の流入が続いて、影響力を増し、
人口が多様化して、白人比率が急減。
多様な人種、民族が言葉や文化を保つコミュニティが、
「多文化主義」の考えを持ち始め、社会構造が変化して
「一つの米国」という国の意識がゆらぎ始めた。
今世紀に入り、進歩派と保守派のミゾは更に深まる。
白人労働者が保守派と合流し、白人至上主義と
自国第一主義が結び付いた。
トランプ大統領は分断をあおり、バイデン氏は団結を強調
する。積年の分裂をどこまで修復できるか?
その成果が、世界の政治経済の行方を大きく左右する。
日経新聞