■江戸小噺「身投げ」
髪振り乱し、橋のたもとまで走ってきた
女が、一文投げて橋の上を通り過ぎようと
するので、橋番があわてて・・
「おいおい、お女中・・
橋の渡り賃は二文だよ」
と声をかけると、女、うしろ振り向いて・・
『あたしゃ・・
橋の真ん中までしか行かないのさ」
1511 【吉村外喜雄のなんだかんだ】
ことば遊び 「落語・釜泥」
油断して失敗するという意味の「月夜に釜を抜かれる」
ということわざがあります。
大もとは落語の「釜泥」から生まれたと言われている。
♪大泥棒石川五右衛門の手下で、二人組の泥棒・・
親分が釜茹でになったというので、放っておけば今に
捕まって、こちとらも天ぷらにされてしまうと心配に
なった。
そこで、親分の追善と将来の安全を兼ね、世の中にある
釜という釜を全部盗み出し、片っ端からぶち壊しちまお
うと、妙な計画を立てた。
さしあたり、大釜を使っているのは豆腐屋だから、
そこから取りかかろうと相談がまとまった。
それから間もなく、豆腐屋ばかりに押し入り、金も取ら
ずに大釜だけを盗んでいく盗賊が、世間の評判になる。
何しろ新しい釜を仕入れても、そのそばからかっさらわ
れるのだから、業界は大騒ぎ。
ある小さな豆腐屋・・爺さんと婆さんの二人きりで、
ごく慎ましく商売をしているが、この店でも、
のべつ釜を盗まれるので、爺さんは頭を悩ませる。
何か盗難防止のよい工夫はないかと相談した結果、
爺さんが釜の中に入り、酒を飲みながら寝ずの番を
することになった。
ところが、いい心持ちになり過ぎて、直ぐに釜の中で
高いびき。婆さんもとっくに船をこいでいる。
と、そこに現れたのが例の二人組。
この家では先だっても仕事をしたが、またいい釜が入っ
たというので、喜んでたちまち戸をひっはずし、釜を縄
で縛って、棒を通してエッサコラサ・・
「ばかに重いな」
『きっと豆がいっぺえへえっているんだ』
せっせと担ぎ出すと、釜の中の爺さんが目を覚まして、
「婆さん寝ちゃあいけないよ」
泥棒二人が変に思っていると、また釜の中から・・
「ほい、泥棒、入っちゃいけねえ」
さすがに気味悪くなって、早く帰ろうと急ぎ足になる。
釜が大揺れになって、爺さんはびっくりし
「婆さん、地震か」
その声に二人は我慢しきれず、そっと下して蓋を開ける
と、人がヌウ~と顔を出したから、たまらない・・
「ウワ~」と叫ぶと、泥棒は何もかもおっぽり出して、
一目散・・
一方爺さん、まだ目が覚めず、相変わらず
「婆さん、オイ、地震だ」
すると釜の中に冷たい風が・・ス~ッ
やっと目が覚め上を向くと、空は満天の星。
「ほい、しまった・・今夜は家を盗まれた」