■「金銭感覚」江戸と上方の違い
落語には、寝言にまで「金をくれ」という、
江戸っ子の風上にもおけない強欲な守銭奴が
登場したりするが、人口の七割が武士の江戸
は、金銭には淡泊でやせ我慢をする清貧な町。
江戸とは対照的なのが商都/大阪・・
金銭万能「雛鍔」にある良家の子どもが、
お金を知らないという、金銭を卑しむ思想は、
いくら落語でも、上方では通用しません。
1275 【吉村外喜雄のなんだかんだ】
ことば遊び 「落語・雛鍔(ひなつば)」
落語のネタで、悪ガキが登場する噺は「真田小僧」「初天神」
「佐々木政談」など・・いずれも大人の上をいく、度の過ぎたいたずらや
マセぶりが、笑を誘うのです・・
♪植木屋が、大きな武家屋敷で仕事中、一服やっていると・・
若様が庭に出てきて、泉水の傍に落ちていた穴あきの四文銭を拾って、 お付きの三太夫に「これは何か?」と尋ねる。
『いっこうに存じません』
「丸くって四角な穴があいているが、文字の形があるから、
古いお雛さまの刀の鍔ではないか?」
『卑しいモノでございます・・お取り捨て遊ばしますよう』
「さようか」と若様、ポ~ンと投げ捨てて行ってしまった。
これを見ていた植木屋、驚いて聞いてみると、 若様は今年ご八歳に
なられるが、高貴なお方には、汚らわしい銭のことは教えないという。
ウチの悪餓鬼も同い歳だが、始終「銭をくれ」とまとわりつくのとは
えらい違いだと、つくづく感心した植木屋・・
これまでは、銭をやらないとかえって卑しい了見になって、
悪いことでもしないかと心配で・・ついせがまれるままに与えていたが、 この考え改めなければ・・と思いながら家に帰った。
女房に「これこれ、しかじか・・」と話をし、「氏より育ち」と横丁の隠居が言うが・・てめえの育て方が悪いから、せがれはだんだん悪くなると・・
愚痴をこぼす。
それをちゃっかり後ろで聞いていた悪餓鬼・・待ってましたとばかり、
「遊びに行くから銭おくれよ」
ためにならねえから、銭はやらねえと言うと、
「くれなきゃ、糖味噌ん中に小便するぞ」と親を脅す。
しかると「や~い、よそ行って威張れねえもんだから、
子供を捕まえて威張ってやがら・・大家さんが来ると震えているくせに」と、手がつけられない。
そこへ、お店の番頭が、遅れている仕事の催促にやってきた。
茶を出して言い訳していると、外へ逃げていった悪餓鬼が
いつの間にか戻ってきて・・「こんなも~のひ~ろった」とうるさい。
穴空き銭を振りかざして・・
「何だろうな、おとっつぁん・・真ん中に四角い穴が空いていて、
字が書いてある・・あたい、お雛様の刀の鍔だと想うけ ど」
これを聞いた番頭、『店の坊ちゃんでも銭を使うことはご存じだが、
おまえさんのとこの子は、銭を知らないのかい?』と感心する。
女房が屋敷奉公していたので、ためにならない銭は持たさないと、
苦しまぎれに嘘をつくと・・
『栴檀(せんだん)は双葉より芳し、末頼もしい子を持って幸せだ・・
いくつだい?』
父親「へえ、おん歳”ご八歳”に相なります」
『”ご八歳”はよかった・・坊や、おじさんが銭・・といっても知らないか・・
うん、銭はためにならない。おじさんが好きなものを買ってあげよう・・
何がいい?』
父親「 どうもありがとう存じます・・やい、喜べ、
あれ!拾った銭をまだ持ってやがる・・汚ねえから捨てっちまえ」
「やだい・・これで芋を買うんだ」