■江戸小噺「魂胆」
ある男、女房を貰って十年近くなるのに、まだ子宝に恵まれない。
連れ添う女房は、器量はいいが、浮気っぽいのが玉にきず。
とうとう隠し男をつくって、ポツポツうわさが広がり出した。
気づかう友人が、こっそり男を呼んで知らせると・・
「俺も、うすうす感づいてはいたが、こっちはこっちで、
ちょっとした魂胆があるのさ・・」と、すごんで見せるので・・
『なるほど・・しこたま銭でも巻き上げるつもりか?』と言うと・・
「なになに・・そんなケチな了見じゃあねえ
女房を盗ませておいて、代わりに子種を取る魂胆さ」
山住昭文「江戸のこばなし」
1093 【吉村外喜雄のなんだかんだ】
~ことば遊び~ 「艶笑落語・目薬」
表舞台の寄席などでは決して演じられず、ごひいき客のお座敷などで
密かに演じられ、語り継がれてきた・・艶笑落語。
落語のオチは卑猥で、ちょっと顔を赤らめたりしますが、江戸庶民文化の伝統の中から生まれたエロチカとして、おおらかで楽しい笑いをさそい、和ませてくれるのです。
今日のお題は、春風亭小朝師匠の得意ネタ「目薬」です。
♪ある大工の亭主、目を患っており、しばらく仕事にもいっていない。
女房「もうお釜の蓋が開かないから、仕事に行っとくれ」と頼みます。
亭主は、それもそうだと思ったが、医者に行く金がない。
そこで、薬屋の目薬で治そうということになり、女房が買いに行った。
店の主人に「いい薬がありますよ、使い方は裏に書いてあります」
と言われ、そのまま買って帰ってきた。
早速使おうとしますが、開けてみると”粉薬”・・どうすりゃいいんだ?
と悩んでいると、薬屋の主人に言われたことを思い出した。
裏を見ると字ばっかり・・「俺、字よめねェんだよ」
困っていると、「そう・・”ひらがな”だったら何とか読める」
そう言って読み始めます。
「こ・の・こ・な・く・す・り・は...」
さて、この次が漢字で書いてあって、わかりません。
「こりゃ、なんて字だぃ?」
『おまいさん、これは湯屋の女湯にある字だよ』
「そうか、"女"という字か」
「こ・の・く・す・り・は・女・し・り・に・つ・け・て・も・ち・う・べ・し」だな・・
古い字で”め”という字を、”女”と間違えて、「目じり」を「女しり」と読んでしまったのです。
嫌がる女房に、尻をまくらせて、そこに粉薬をかけます・・
「そのままだよ、じっとしてなよ・・」
薬を包んだ紙を三角に折って、そのはじっこから粉を・・パラパラ、パラ
『ちょいとおまいさん、何であんたの目を治すのに、あたしのお尻に薬を付けるのさぁ・・くすぐったいじゃないの』
「そう書いてあるから仕方ないだろ! 女はお前しかいないんだら・・・」
薬を付けた女房の尻に顔を近づけ、チカチカする目の玉を見開いて、
病んだ目を治そうと頑張る。
一方の女房・・亭主のためにと、四つんばいになってふんばる・・
涙ぐましいばかりの夫婦愛でこざいます。
ところが、間の悪いときというものは、しようがないもので、お昼に食べたおかずが、さつま芋にゴボウのきんぴら・・東京ガスご用達というやつで・・ぼちぼち天然ガスが溜まってまいりました。
お尻がムズムズしてくすぐったい・・ムッと我慢する・・腹に力が入る・・
途端に思わず「ブゥー!」
覗き込んでいた亭主の顔に、もろに吹きかけたものですから・・
堪りません。
「うわっぷ・・プファッ・・よ、よせやイ! おめぇ、なんてぇことしやがんでえ! もろに・・あぁ、薬が全部吹っ飛んじまって・・目に入って・・あれ? あ、そうか! 薬はこうやって付けるのか...」
ばかばかしいお笑いの一席でした・・