■短編アニメ「頭山」
短編アニメの先駆者、山村浩二監督・・2002年に制作した
「頭山」が、世界の主要なアニメ映画祭で六つのグランプリを
受賞した。
2003年には、第75回アカデミー賞・短編アニメーション部門
の候補作品にもなった。
子どもも大人も楽しめるこの「頭山」のアニメ・・各国で話題に
なった。
山村監督が、子どもの頃から親しんできた落語「あたま山」の
奇想天外なあらすじを、10分間の作品にしたものです。
山村氏が書き上げた一万枚を超える絵に、歌と三味線の演奏
を付けた。手描きの絵が微妙にブレる映像には、今主流の
CGによる、アニメーションにはない独特の温かみがあります。
落語に関心のない人も、「あたま山」によって、それまで落語に
抱いていた古くさいイメージが消え、興味がわいてくるのです。
1073 【吉村外喜雄のなんだかんだ 】
~ことば遊び~ 「落語・あたま山」
春は花見の季節にちなんだ落語を一席。
♪周りはみな趣向をこらして、桜の下で飲み放題、食い放題のドンチャン
騒ぎをやらかすのが常だが・・ここに登場のケチ兵衛という男、名前の
通りのしみったれ・・
花見なんぞに一文も使えないというので、朝から晩まで飲まず食わずで、ただ花をぼんやり見ながら、さまよい歩いているだけ・・しかし、
さすがに腹が減ってきた・・
地べたをヒョイと見ると、ちょうど遅咲きの桜が、もうサクランボになって
落ちているのに気づき・・「こりゃ、いいものを見つけた」と、泥の付いているのもかまわず、一粒残さずむさぼり食った。
翌朝・・どういうわけか、頭がひどく傷んできて、「はて・・おかしい」と思っているうちに、昨日泥の付いたサクランボを食ったものだから、頭の上にチェリーの木の芽が咲いた・・
さあ大変なことになったと、女房に芽をハサミで切らせたが・・時すでに遅く、幹がにょきにょきと伸び出し、みるみる太くなって、気がついた時は周りが七、八尺もある桜の大木に成長・・
さあ・・これが世間の大評判になる。
野次馬が大勢押しかけて、ケチ兵衛の頭の上で花見をやらかす。
茶店を出す奴がいると思うと、酔っぱらってすべり落ち、耳のところに
ハシゴを掛けて登ってくる奴もいる。
しまいには、頭の隅に穴を開けて、火を燃やして酒の燗をする者も出て
くる始末。
さすがにケチ兵衛、閉口して・・「いっそ花を散らしてしまえ!」というので、ひとふり頭を振ったから、たまらない・・頭の上の連中、一人残らず
ころがり落ちた。
これから毎年毎年、頭の上で花が咲くたびに、こんな騒ぎを起こされた
日にはかなわないと、ケチ兵衛・・町中の人を頼んで、桜の木をエンヤ
コラのドッコイショと、引っこ抜いた・・
ところが、あまり根が深く張っていたため、後にポッカリと大きな穴が空き、夕立に遭うと、そこに満々と水が溜まる・・
よせばいいのに、この水で行水すれば湯銭が浮くとばかりに、そのまんま溜めておいたのがたたって・・ボウフラがわく、フナがわく、鯉がわく、
ウナギがわく、ナマズがわく・・とうとう、頭の上に養魚場が出来上がった。
こうなると、釣り人がどっと押し寄せ、ケチ兵衛の鼻の穴に針をひっかけるかと思えば、釣り船まで出て、芸者を連れて呑めや歌えの大騒ぎ・・
ケチ兵衛、つくづく嫌になり・・こんな苦労をするよりは、いっそ一思いに
死んでしまおうと・・南無阿弥陀仏と唱えて・・自分の頭の池にドボーン
■ドイツのビュルカーの小説「ほら吹き男爵の冒険」に、これとよく似た
エピソードがある。
♪男爵が狩りに出かけ、大鹿を見つけた・・運悪く弾が切れていたので、
代わりにサクランボの種を銃に込めて撃つと、鹿の頭に命中・・しかし、逃げられてしまった。
数年後、同じ場所で狩りをしていると、頭から10フィートばかりの立派な
桜の木を生やした鹿に出合った・・男爵はこれを仕留め、上等の鹿肉と
サクランボのソースを同時に手に入れた。