「ハロウイン発祥の民話」
むかしむかしフインランドに、人をだますことが得意なジャックという男がいました。
ある日、地獄から悪魔がやってきて、ジャックに言いました。
「おい、お前は人をだますことが得意だそうだな・・よしよし、お前のような悪人の魂は高く売れるから、おれさまが買ってやろう・・いくらだ?」
悪魔に魂を売れと言われて、ジャックはビックリ・・どうせ俺は悪人だから、死んだら地獄に落ちるだろう・・それなら、この悪魔を利用して、死ぬ前に遊びほうけてやろう・・と考え、悪魔に言った。
「俺の魂を買うというのなら、代金は銀貨にしてくれ・・それも、使っても使っても財布の中身が減らないようにしてくれ・・そうしたら十年後、俺の魂、あんたにやろう」
『よし、そうなら十年間、俺が減らない銀貨になってやろう』と悪魔は銀貨に変身して、ジャックの財布の中に飛び込んだ。
それからのジャック・・使っても使っても減らない悪魔の銀貨を使って、遊びほうけた。
十年後、銀貨になっていた悪魔が財布から飛び出してきて、元の姿になって言った。『どうだジャック・・十年間楽しんだだろう・・さあ、約束どおりお前の魂を貰うぞ』
「ああ・・約束だから魂を持っていくがいい・・約束したのは十年前のお昼過ぎ・・今はまだお昼前だ・・魂を取られる前に、最後の食事をしたい・・あの木になっているリンゴを取ってきてくれ」
『そうか、それなら最後の食事を楽しむがいい』
悪魔はリンゴの木に登って、リンゴの実を取ろうとしました。
するとジャックは上を指さして「それはまだ小さい・・最後の食事だから、もっと上の大きなリンゴが欲しい」 『では、これか?』 「いいや・・それではまだ小さい・・もっと上の、あの葉っぱの奥にあるリンゴだ」
悪魔はさらにリンゴの木を登って、ジャックが指さす葉っぱをめくった。
めくった葉っぱの奥を見てびっくり! 『うぎゃ~! 十字架だ・・!』
葉っぱの裏の枝に、十字架が彫ってあったのです。
実はこの十字架、昨日のうちにジャックが木に登って、彫り刻んだものでした。
十字架を見た悪魔は、恐怖で体が固まってしまい、その場に動けなくなってしまいました。悪魔はなさけない声で、ジャックに頼み込んだ・・
『どうか助けてください』
「助けてやってもいいが、俺の魂を取るのをあきらめてくれるか?」
『はい・・あきらめます・・あきらめますから、早く助けてください』
「よし・・だが、どうせ俺は地獄行きだ・・だから、死んで地獄へ行かなくて済むようにしてくれ」
『えッ! それはちょっと・・』 「いやなのか? 嫌なら助けてあげないよ」
『ひェ~! わかりました・・死んで地獄へ行かなくて済むようにします』
こうしてジャックは、悪魔を助ける代わりに、地獄へ行かなくて済む誓約書を手に入れたのです。
それから月日が過ぎて、ついにジャックが死ぬ時がきた。
早速、地獄から迎えが来た・・ジャックが悪魔と交わした誓約書を見せると、地獄の迎えはあきらめて帰っていった。
ジャックは天国の入り口に立ち、中に入ろうとしたが、天国の門番は扉を閉ざして開けてくれません。
『お前は多くの人をだました悪人だ・・天国へ入ることは許されない』
こうしてジャックは、カブをくり抜いた明かりを持って、地獄と天国の間を、今も行ったり来たりさまよっているのです・・。