【中国寓話】
「おまえに土産をやろう」と言って、
仙人が小石を指さして、黄金に変えた。
が、男は嬉しそうな顔をしない。
大きめの石を黄金に変えても、男は首を縦に振らない。
不思議に思った仙人がわけを聞くと、男は言った…
「仙人の…その指が欲しい」
人間の欲の深さと、その愚かさを戒めた寓話です。
866 【吉村外喜雄のなんだかんだ 】
~故事から学ぶ~ 「蛇足の由来」
楚には、歴代重職につく「屈・景・昭」という御三家があった。
戦国時代半ば、昭家の”昭陽”は大臣職の地位にあったが、
軍を率いて”魏”
を攻撃し、
敵軍を壊滅させて敵将を討ち取り、
八城を奪い、さらに矛先を”斉”に向けた。
恐れをなした斉王は使者を派遣した…使者は昭陽の前にひざまづき、
戦勝を祝賀して言った。
「楚では、敵軍を壊滅させて敵将を討ち取った場合、どれほどの官爵を賜りますか?」
『さよう、官は上柱国、爵は上執珪といったところかな』
「それより上は?」 『宰相だけだな』
「宰相といえば並ぶものなき最高職…二人置くわけにはまいりません」
と使者は言って、たとえ話をした。
♪ある司祭が祭りのあとに、使用人たちに大杯に一杯の酒を与えた。
みんなで飲むには足りないが、一人で飲むなら十分だ。
そこで、地面に蛇を描いて、最初に描きあげた者が飲むことにした。
さっと描きあげた男が、杯をとって「まだ…足まで描けるぜ」
と描いているうちに、もう一人が描き終え、杯を奪い取って言った…
「蛇には足なんてないんだ…描けるわけがないだろう」
足を描いた男は酒を飲み損ねた…
この故事から、なんの益もない余計なつけ加えを「蛇足」というようになった。
使者の結論はこうである…
「あなたは楚の大臣として”魏”を攻めて大勝利し、尚も勢い盛んに”斉”
まで攻めようとなさっています。
しかし、功名はこれで十分…しかも昇進すべき官職はない。
勢いに乗りすぎると身の破滅…せっかくの地位を他人に奪われてしまいます。
これ以上勝利を求めるのは、ちょうど”蛇の足を描く”ようなものです」
この使者の名は陳軫(ちんしん)…戦国時代に諸国を遊説して歩く「説客」
の一人です。
諸侯たちは、厳しい生存競争を生残ろうと、有能な人材を集めていた。
説客は、諸国を渡り歩いて各地の事情に明るく、諸侯の要請にこたえて、
内政の改革や外交交渉などに活躍した。
陳軫は”楚”の地を歩き、”秦”に仕え、連衡策で”蘇・秦”の合従策を破った”張儀”
と対立したりした歴史上の人物である。
昭陽が、斉への進撃を取り止めたのは、いうまでもない。
丸山松幸著「中国の名言100」