■エジプトの危機
昨年、チュニジアへは観光で…
エジプトへはスキューバーダイビングで
訪れた。
平穏で治安が良く、観光でにぎわう両国が今、
政情不安に
陥っている。
エジプトでは、警察官の麻薬密売を告発した青年が虐殺された。
これが発端となり、
若者たちがネットでデモを訴え、ついにはムバラク
政権を崩壊させた。
イスラム国では唯一、イスラエルと和平条約を結んでいるエジプト。
ムバラク政権に代わる野党組織は、非合法組織のイスラム原理主義
「ムスリム同胞団」だけ…他は組織をなしていない。
オバマ政権が恐れるのは、狂信的反米政権が誕生すること…
そして、米国と親密なサウジなど、アラブ近隣諸国に影響が及ぶこと。
イラン革命の時は、宗教界の権威・ホメイニ氏が大衆を鼓舞したが、
エジプトには、百万人の大衆デモを統括する指導者が存在しない。
ムスリム同胞団は、穏健な政策で、国民の支持を得ようとしているが、
欧米の観光客で潤い、欧米と繋がりの深いエジプト…今後、キリスト教
国を排除する、イスラム原理主義組織が急速に拡大し、イランのような
反米国家になることはないだろう。
840 【吉村外喜雄のなんだかんだ】
~歴史から学ぶ~ 「第一次十字軍遠征」
辞任か否か…世界が去就を見守っていた、エジプトのムバラク大統領…
10日夜、意外な人物に電話をしていた。
「私が退陣したら、エジプトだけでなく全アラブが崩壊し、イスラム過激派国家になってしまう…
それでもいいか!」
会話の相手は、イスラエルの元国防相…。 (2/
13読売新聞)
ローマ衰退後の7世紀から8世紀にかけて、イスラムの勢力が拡大し、
中東、北アフリカ、
イベリア半島がイスラムの勢力圏に取り込まれた。
キリスト教徒の巡礼地イェルサレムは、イスラム圏の中にある。
当時、ヨーロッパからの巡礼者が旅の途中で、
イスラムから迫害を受けることはなかった。
発端は1095年、ビサンチン帝国(東ローマ帝国)
がイスラムの侵略に苦しみ、
ローマ教皇に援軍を要請したことに始まる。
要請を受けた教皇…「これは”聖戦”である!
この戦いで命を落とした者は殉教者となり、この世の”罪”
すべてを許され、天国に召されるであろう」と…
この呼びかけに参集した西欧の聖職者・王侯・
騎士、市民・農民に至るまで、十字を胸に聖地回復の遠征に加わったのです。
扇動され、東に向った十字軍の総数は十万を超えた。
キリストの戦士になった気分で参戦したが、軍備も食糧も不十分のうえ、
軍隊としての組織をなさず、規律なき烏合の衆だった。
数ヶ月後に、ビサンチン帝国の都・コンスタンティノーブルにたどり着くも、
首都の門は閉ざされ、城外に野営する破目に… 。
ここからは小アジア…
イスラム圏に入る。勇猛なトルコ軍の迎撃を受け、
攻防は熾烈を極めた。
道中、イスラムの住民に襲われて命を落とす者、餓え・さ迷い歩いた末、
命つきる者、
小アジアを横断したとき、兵士は二万人足らずになっていた。同胞の亡骸を踏み越えて、
ひたすら聖地エルサレムを目指したのです。
十字軍が通った後の、虐殺されたイスラム住民の数は、すさまじいばかり。
イスラム教徒を殺し、聖地を奪還することを使命とした、十字軍の兵士たち…
イスラム教徒を何人殺そうと、罪の意識は皆無…殺しまくったのです。
聖地に近づくにつれ、十字軍兵士は水不足に悩まされた。
第一次十字軍の犠牲者は、戦いで死んだ者よりも、
餓えと渇きで命を落とした者の方が多かった。苦難を乗り越え、
三年の歳月を要してようやくたどり着いたイェルサレム…
兵士たちは皆、
感涙した。
聖地イェルサレムを巡る攻防は、キリスト教徒にも、
イスラム教徒にも、絶対に負けられない”
聖戦”…8ケ月に及ぶ激闘の末、聖地奪還に成功した十字軍…
イスラムの老若男女を、残酷なまでに殺戮しまくった。
1099年、キリスト教徒の国・イェルサレム王国建国。
イスラムの聖地をキリスト教徒に奪われたことは、イスラム世界にとって大衝撃…
イスラム住民は、生活の基盤を十字軍に踏みにじられ、絶望の淵に追い込まれたのです。
その後、イスラム指導者のジハード(聖戦)呼びかけで、勢力を盛り返えす。
1187年、イスラムは聖地を奪還。
対抗して、ローマ教皇は第二次十字軍を召集。
十字軍の遠征は、1270年の第十回遠征まで、百年近く続くのです。
歴史は巡り、15世紀初頭、一千年栄えたビサンチン帝国の首都コンスタンティノーブルが、オスマン・トルコの攻撃にさらされた…
ローマ教皇に十字軍派遣を要請したが、
ヨーロッパの諸候は動かず…攻防戦の末、1453年ついに陥落…
城内のキリスト教徒は虐殺され、生残った者は奴隷に…ビサンチン帝国は滅亡した。
十字軍は、一時期奪還に成功したが、
二十世紀初頭イギリス軍が占領するまで、エルサレムはイスラム圏の中にあった。
十字軍の遠征は、当初の目的を達成することなく、失敗に終わったのです。
塩野七生著「絵で見る十字軍物語」より
イスラム教徒とキリスト教徒…千数百年受継がれてきた怨念が、歴史の地下深くに潜むマグマとなって噴出…衝突を繰り返しているのです。