■落語「長短」のルーツ
落語「長短」のルーツを探っていくと…
中国・明の時代の文人が著した「笑府」に行きつく。
その巻六の小噺は「長短」と同じ、物が焦げるところがオチに
なっている。
ところが、この「笑府・巻六」の小噺にも元ネタがあって、
宋代の小噺本に載っているものを、更に面白可笑しく脚色した
もので、内容は「長短」そっくりです。
「笑府」をネタ本にして、沢山の江戸小噺が作られているが、
その多くは下ネタになった。
落語ネタになったものには、「三軒長屋」「松山鏡」「饅頭こわい」
などが知られてる。
823 【吉村外喜雄のなんだかんだ】
~ことば遊び~ 「落語・長短」
毎週火曜日夕方6時の「BS2寄席」…面白いネタがあると、
ダビングして見ている。先月の出しものでは、
柳屋喜多八の「長短」が面白かった。
せっかちとのんびり屋の二人は竹馬の友…正反対の性格だが、なぜか気が合う。
この噺は、三代目桂三木助、五代目柳家小さんが十八番にしていた。
三木助は”短気”の方に、小さんは”のんびり屋”の方に芸風が強く出ている。
登場人物が二人だけなので、人物描写やメリハリをつけるのが難しく、
演じる上で基本技術が試される…芸の浅い若手落語家は、苦手とするネタです。
♪「う~ん、よいしょッと…お~い短七、いるかァい…
へへッ来たよ…長七だよォ」
『なにウロウロしてんだ…早く入れよ』 「ああ、やっぱりいたね」
『いるよ…俺んちだからよ。早く上ってきてそこへ座れよ…
グズグズすんな』
会話の速さがまったく噛み合わない
「どっこいしょッと…どうも、こんちわ」
『何がこんちわだ…何かあったのか』
「いやね…夕べね…小便したくて夜中に起きてね…それでね…驚いちゃった」
『どうした…泥棒でも入ったか』
「そうじゃァねえ…空が変な色なんだ。こう…赤いッていうか…
紅色ッていうか」
『まさか…火事でもあったのか?』
「違うよゥ…あのね…変な色をして星も見えねえんだ。こりゃァ…もしや明日は雨かと思ったら…今日は天気がいいね」
『天気かよ! 張り倒すぞ…この野郎』
イライラする短七に臆することなく、まるでペースを崩さない長七。
『さあ…茶が入ったぞ…飲め。冷めるじゃねぇか…ほら…
菓子も食え…腐るから』
「フフフ…そんなすぐにゃ腐らないよゥ…短七さんは面白いや…」
『あ~、まだろっこしい…ほら、煙草に火がついたぞ…
吸え吸え…火が消えちまう』
「そうかい…じゃ一服しようかねェ。よいしょ…プカ~~リ…
プカ~~~~リ」 口から出た煙が、
ユラユラ揺れている。
『なんだそりゃ…煙草なんてこうやってスパスパ吸って…
ポンと灰を落とすもんだ』
「そうかい…じゃやってみる…スパ~~」
『ちっとも変わってねえよ…こうやってスパッ、ポンてなもんだ。
俺なんざ、たまに吸わねえで火種を落とすこともあらァ』
「ふう~ん…あの~…ま、いいや…」
『なんだよ、言いかけてやめるなよ』
「でも怒るから~…やっぱり言わない」
『気になるだろ…怒らないから言えよ』
「本当に怒らない? じゃ言う。あのね…さつき短七さんが火を落としたとき…
火種がね…煙草盆の中に落ちなかった…あれあれ…
どこへ行ったかと思ったら、
たもとから煙が出てるんだ…早く消さないと…」
短七、あわててたもとを払って、
『バカ、なんでもっと早くいわねェんだ』
「ほら~やっぱり怒鳴られた…だから、言わねェほうがよかった」