■ 袈 裟
袈裟には大小二種類ある。特に大きな袈裟を「大袈裟」という。
「大げさなことを言うな…」の”大げさは、ここから出た言葉です。
薄地の夏用、裏地の付いた厚手の冬用、中間のあい物があり、
キンキラキンの派手なものから、地味で落ち着いたものまで、
いろいろです。
座禅を行う禅宗の宗派は、袈裟に”輪っか”が付いている。
蚊帳のつり紐の輪と同じ役割で、他宗では直接紐で結びます。
”袈裟”から派生した言葉には、「「坊主憎けりゃ、袈裟まで憎い」
「袈裟斬り」があり、選挙のたすきを「袈裟にかける」という。
袈裟がけにからむ逸話を一つ…
江戸時代、処刑が決まった罪人を、唐丸籠や、両手を後ろ手に縛られ、
裸馬に乗せられて、護送されていく。
見物の高僧が、囚人に向かって着ている袈裟を投げかける…
その袈裟が見事罪人にかぶされば、処刑は中止される。
僧侶は、その罪人を貰い受けて、更生を計ることが許されたのです。
789 「吉村外喜雄のなんだかんだ」
~ことば遊び~ 「落語・錦の袈裟(けさ)」
落語のネタには、吉原を題材にしたものが多い。
いずれも艶があって、江戸庶民の心意気が伝わってくる。
♪昔は、男が遊びに行くと言えば、吉原に決まっていた…
隣町の若い衆が昨夜吉原で、緋縮緬(ひちりめん)の揃いの長じゅばんで、
カッポレの総踊り。
帰り際に「隣町のやつらにゃ、しみったれで、 こんな銭のかかった遊びは出来めえ」
と言った… そんな噂を聞き込んできだ。
「あっちが”縮緬”なら、こっちはもっと高級な”錦”だ!」
伊勢六・質屋の番頭に、「錦布が10枚あるので、何かの時は使ってください」
と言われていた。
質流れの錦でもって褌をこしらえ、相撲甚句で総踊り…
ということになったが、あいにく与太郎1人があぶれた。
「女遊びがしたかったら、錦の褌でないとダメだ」と釘をさされた。
家に帰っておかみさんに相談すると、あきれるやら、バカにされるやら…
しょんぼりする亭主を見たおかみさん… 「お寺に行って…
親戚の娘に狐がついた…ありがたい和尚さまの袈裟をかけると、狐が落ちると聞いたので、お貸し願いたい…と言って、借りといで!」
さすが女房…但し、明日和尚が法要で使うので、
朝には間違いなく返さなければならない…と言う。
その袈裟を女房に締めてもらうと、まことに豪華な”褌”になった。
が、白い輪っかが邪魔をしてサマにならない…「そのまま行っといで…」
その晩、若い衆連れ立って吉原に繰り込み、相撲甚句に合わせて、
錦褌の総踊りを披露した…驚いたのは廓(くるわ)の連中…座は盛り上がり大盛況…与太郎も、前に白い輪っかをブラブラさせ、
尻まくりをして踊りまくった。
「錦の褌を締めてるよ! どこかお大名の隠れ遊びに違いない」
「ちょいと…誰がお殿様かわかるかい」
「あのすこ~しぼんやりした人だよ…ほら、輪っかが付いているだろ…
そりゃあご身分のあるお方だもの…お小用なさるにも、手で持たず、
あの輪っかにひっかけてなさる…あれはきっと”ちん輪”だよ」
家来はどうでもいいから、お殿様だけ大事にするようにと、
女郎たちの間でささやかれた。
おかげでその晩、与太郎一人…大もてだった。
翌朝、一同揃いに揃って不首尾のようで…浮かぬ顔。
ふてくされて、さっさと帰ろうとすると、
与太郎の姿が見えない。なんと、与太郎は花魁(おいらん)
といい思いをしていたのだ。
与太郎に、「おい! 帰るぞ」と告げに行くと…
花魁が「いいえ、今朝(けさ)は帰しませんよ」
それを聞いて慌てた与太郎…
「袈裟(けさ)は返さない? そりゃ大変だ…お寺をしくじる」