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日清戦争とカキ殻

■無血革命で、明治の新政府誕生

徳川幕府が瓦解して、明治新政府が誕生した時、平穏に政権が譲渡されたことに西欧諸国は驚きました。西欧では、 権力が入れ替わるときは、フランス革命に象徴されるように、必ずといってよいほど、多くの流血と犠牲を強いられるからです。

明治維新に、新政府がまず実行したのは、三千六百万両(約3兆円)という、全国の諸藩が抱えていた途方もない負債を、 明治政府が肩代わりして、全額棒引きしにしたことです。
これによって殿様は、領主の地位を失いはしたものの、借金地獄から解放されることになったので、泣いて喜んだのです。
今なら、膨大な負債で倒産を覚悟してでいた会社社長が、社長を退く代わりに、借金の全てを肩代わりしてもらうようなものです。
維新で一番得をしたのは、藩主ということになります。
それ故、世界史に例をみない「藩籍奉還」という、無血革命がスムーズに行われたのです。


【吉村外喜雄のなんだかんだ - 570】
~歴史から学ぶ~ 「日清戦争とカキ殻」

司馬遼太郎の「坂の上の雲」が、来年から2年間NHKでロングラン放映されることになった。既に撮影に入っているそうで… 楽しみです。

私が過去に読んだ書物から一冊を選ぶなら、躊躇なく「坂の上の雲」を選ぶでしょう。
次いで三国志でしょうか…繰り返し読んだ本は、この両書です。
歴史小説なのに、経営書のように、あちこち鉛筆で線を引いたり、ページの端を折り曲げたりしてあります。

明治新政府樹立直後から、政府の重要政策に、朝鮮の「排日的鎖国主義を討ち、開国を求める」というのがある。
明治8年、日本の軍艦が韓国・漢江の砲台と交戦し、占領した。
翌年、アメリカに習って、釜山ほか2港を無理やり開港させ、不平等な日韓修好条規を締結した。以後日本は、宗主権を主張する清国と、 激しく対立することになる…。

朝鮮半島では、日本人の米の買占め阻止と、朝鮮政府の重税、官僚の腐敗などに苦しむ農民が、一斉蜂起した。
日本軍はこの機を逃さじと、朝鮮を清から独立させ、在留日本人保護を大儀名分に、朝鮮から清国の勢力を排除すべく、軍隊を動かした。
7月25日、ついに、日清両国艦隊は朝鮮・豊島沖で交戦。
日本の命運をかけて、東洋の大国"清"と、戦争を始めたのです。

「坂の上の雲」、日清戦争のくだりを読んでいくと…
戦いに勝つために、海軍省の山本権兵衛(ごんのひょうえ)大将が最初にやったことは、
戊辰戦争で功労のあった、海軍幹部の首を切ったことです。

清国と戦争を始めるに当たり、既成観念に凝り固まっている管理職を、一掃してしまったのです。 その後任に、若手の士官を抜擢して、黄海に押し出した。
日本海軍は縦横機敏に活躍し、"カキ殻"がいっぱいついた清国艦隊を、次々と沈めていった…。

艦船は、遠洋航海に出て帰ってくると、船底に"カキ殻"がいっぱい付いて、船足が落ちる。人間も同様です。経験は必要だが、 経験によって増える知恵と同じ分量だけ、カキ殻が頭に付く。知恵だけ採ってカキ殻を捨てることは、人間にとって大切なことだが、 歳を重ねると、過去の経験に囚われて、これが出来なくなってくる。

人間だけではない。国も古びる。海軍も古びる。
「海軍はこう…」「艦隊はこう…」「作戦はこう…」と、固定観念が邪魔をする。
恐ろしいのは、固定観念そのものではなく、固定観念に囚われていることも知らず、平気で司令室や、艦長室の柔らかい椅子に、 どっかり座り込んでいることです。
一方、素人というのは、 知恵が浅い代わりに固定観念がないから、必要で合理的と思えば、過去に囚われることなく、どんどん採用し、実行しようとする。

私たち零細企業に共通する課題は、古参幹部社員にとって代わる人材がいないことです。社長と労苦を共にし、 現在の会社に育てあげた功績で、経営幹部に居座っている。
過去の経験に囚われ、時代の変化に適応できなくなっている自分に気付いていない。
パソコンが苦手で、覚えようとしない経営幹部などは、その良い例です。
これは、経営する立場の私にも言えることで、いつまでもトップにいることの弊害に気付き、早めに後継者にバトンタッチすべきでしょう。
また、社長を引き継いだ二代目経営者が頭を痛めるのは、古参経営幹部の処遇です。

※[日清戦争]
明治27年7月から翌年4月、日本と清国は、朝鮮の覇権をめぐって戦争。
日本陸軍は9月に平壌、11月に遼東半島を占領し、北京・天津を脅かした。
海軍も9月、黄海海戦に勝利して制海権を握り、翌年1月の威海衛攻撃で、中国北洋艦隊を全滅。
戦費総額2億円、動員兵力24万人、戦傷者1万3千人(戦死者数百人)。
4月17日講和条約(下関条約)締結。日本は領土と賠償金を手にした。
その後日露戦争を経て、明治43年韓国を併合。
太平洋戦争終了までの間、朝鮮は日本の保護国となる…。

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