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老舗企業大国日本(2)

■老舗の多い金沢

「越中強盗、加賀乞食、越前詐欺師」…北陸の県民気質を言い表した言葉です。
家業がにっちもさっちもいかなくなった時、越中富山は"強盗"してでも…、越前福井は、 "詐欺"をしてでも…あきらめずに、 歯を食いしばってこらえ、何とかしようとする、
へこたれない。
それに引き換え、加賀金沢のわんさんは、へなへなと、なす術もなく乞食になる…。

金沢市は、富山市や福井市のように、戦災や地震で焼け出され、辛酸をなめた辛い経験がない。昔ながらの古い町屋・老舗が建ち並ぶ金沢… 土蔵のある家も珍しくない。
多くの老舗は貸家や不動産を持ち、おんぼら~と商をしている。
代々、謡曲をたしなみ、お茶屋遊びをする、粋な土地柄。富山や福井の商人ほどには、働かない…。
福井市の問屋団地、衣料品問屋の社長さん…「石川県は商いやすい」と言う。
富山県・高岡の卸問屋…能登の商圏に入り込み、金沢の問屋のお得意先を取っていく。
それをやっかんで、このような言葉が生まれた…。

京都で活躍する商人の多くは、滋賀の"近江商人"だという。
同じように金沢で活躍する商人は、富山県人が多いのです。


【吉村外喜雄のなんだかんだ - 221】
~歴史から学ぶ~ 「老舗企業大国日本(2)」

仏像・仏具の装飾に欠かせない金箔。金箔の99%が、我が故郷金沢で生産される。
加賀藩を興した前田利家が、京都から職人を呼び寄せたのが、その始まりという。
明治32年(1899年)創業の"カタニ産業"。金沢の金箔業界の一翼を担う老舗。
戦後養子に迎えられた三代目社長は、台湾に目を付けた。
台湾の人々はお寺参りする時、金色の紙に火をつけ、パチパチと派手に燃えれば
燃えるほど、ご利益があると信じた。

その金色の紙とは、紙にアルミ箔を張りつけ、黄色く塗ったものです。
三代目社長、このアルミ箔を自社で製造し、台湾に売り込んで、莫大な利益を得た。
カタニの箔の生産高は、金箔1割に対して、アルミ箔が9割…全国のアルミ箔シェアの半分はカタニ、と言われた時もあった。

富山県から来たよそ者…当然、同業者から妬まれ、異端児と白い目で見られ、風当たりは強かった。養子だからこそ、 保守的な金箔業界の観念にとらわれずに、実行できたのです。
蚊谷社長の座右の銘は「伝統は革新の連続」…伝統で受継がれてきた金箔の技術を守っていくだけでなく、その技術を生かし、 その時代時代に即応した商品・技術を次々開発していった…だからこそ、現在のカタニがあるのです。

私は繁華街香林坊育ち。商店街の名の知れた薬局、九谷焼、家具、ブティックの店主は養子でした。何れも、 店を廃れさせては養子の恥と、よく働き、店を繁盛させた。
私も某老舗から、養子に欲しいと打診されたことがあるが、片町の帽子店の同級生(次男)が、同じ商店街の老舗家具店の養子になっている。

一方で、「家督は長男に継がせる」と、決めている経営者も多い。
苦労して築き上げた会社…「有能な他人より、信頼できる血族…我が息子に」の思いが強いのです。
大坂の船場や東京の日本橋には「息子は選べないが、婿は選べる」という言い伝えがある。百年以上続いてきた老舗には、 男子を後継者にせず、経営者の資質に優れた人材を、
婿養子に迎え入れて、暖簾を守ってきたところが多い。

そういったことから、船場には、娘が生まれると赤飯を炊く風習があった。
NHK篤姫が嫁いだ、徳川家十三代将軍"家定"のように、跡取り息子がとんだ"アホのぼんぼん"でも、長子相続にこだわる限り、 経営を委ねざるをえない。
これで店を潰すくらいなら、赤の他人でも、優秀な娘婿に任せたほうがいい…。
船場や日本橋の老舗…家訓にしてまで、店を守ろうとしたのです。

NHK・BS朝の連続ドラマ、「京都の風」の再放送が3月末に終了した。
京都・老舗呉服屋の三姉妹が、店の暖簾を巡って繰り広げるドラマ…。
店を継ぐことになった次女は、店の番頭ではなく、外から養子を迎え入れた。
その養子、商いに失敗して店を潰しかけた。次女は「店を出ていってほしい」と、
夫である養子に三くだり半を突きつける…そんなシーンが印象に残っている。
役に立たない養子は、離縁して縁を切る。
養子縁組の裏には、そのような打算が働いているのです。

角川書店/野村進「千年、働いてきました」より

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