■帝国海軍軍人が残した言葉
○25歳にして、南太平洋の凄惨な戦闘で亡くなった、
海軍主計大尉小泉信吉が、22歳の夏に書き残した言葉です。
「十歳の頃から、海軍士官になることが理想になりました。
落日の下に今や沈まんとする艦のブリッジに立ち、艦と運命を共にする艦長に
わが身をなぞらえたり。
幕僚を従えて海戦に臨む司令官に、未来のわが身を描いております…」
※海軍軍人に憧れた青年の、平均的姿です。
○戦艦大和が、燃料片道の沖縄突入作戦に出動を決定した時、
青年士官の間で、特攻で死んでいく意義をめぐって、激しい議論が起きた。
死生論議が堂々巡りする中、混迷を断ち切ったのは、若手士官を束ねる立場の、
哨戒長"臼淵 磐"大尉の言葉だった。
「日本は、進歩ということを軽んじすぎた。私的な潔癖や徳義にこだわって、
本当の進歩を忘れていた。敗れて目覚める…俺たちはその先導になるのだ。
日本の新生に先がけて散る…まさに本望じゃないか」
吉田満「戦艦大和ノ最期」より
【吉村外喜雄のなんだかんだ - 216】
~歴史から学ぶ~「東京大空襲(2)」
以下、当時中学1年だった"滝 保清"さんの地獄の体験記、前号の続きです。
「お母さん!」『どうしたの、お爺さんは?』「ダメ!行ってもダメ!お婆さんは何処へ行ったかわからないし…探しに行っても無駄!
それより由美子の所へ行こう」
異様な私に、母も大変な事態になったことを察し、由美子の所へと走った。
途中「バリバリ」と、雷が何十個もまとまって落ちたような轟音に、二人は一瞬頭を抱え、地面に伏してしまった。至近弾の炸裂です。
炎を逃れて逃げ惑う人たちの頭上に、雨アラレと降り注ぐ焼夷弾…。
つんざく炸裂音と同時に、中から、真っ赤に燃える生ゴムのようなものが四散。
目の前の家の羽目板に付き、「パッ」と明るくなる…と同時に燃え出すのです。
「ゴー」と、鼓膜が破れんばかりの地響き…見上げると、B29が超低空で飛んでいく。
炎の照り返しで、物凄く大きな悪魔のように、機体は真っ赤。
空をにらみ上げ、無念の唇を噛みしめる。
無抵抗に逃げまどう女・子どもを、皆殺しにしようと空から嘲笑っている鬼のようです。
何とか小学校に逃げ込んだ。中はすでに人でいっぱいだったが、私と母は廊下の隅にへたり込んだ。
校庭を見ると、真っ赤な火の粉が渦巻き、校庭に高く積んであった古材が燃えて、「ボンボン」舞い上がっていた。
火焔と烈風は凄まじく、この世の地獄…「外にいるほとんどの人は助からないだろう…」。
恐ろしさで震えが止まらない。
逃れてくる人たちは、どの人も衣服が燃えていた。その人達を中へ入れようと、校舎の扉を開けると、
同時に凄まじい火の粉と煙が中に舞い込んでくる。
そのうちに、衣服の燃える火を消す水も絶えてしまい、衣服から飛び散った細かい火の粉が校舎内に散らばり、煙が充満し、
むせかえるような息苦しさ…。
しばらくして、校舎を火災から守り、中に避難している1,500人の生命を守るために、校舎入り口の鉄扉に鍵をかけた…
断腸の思いでの決断だったのです。
更に、強風と外圧に耐えるように、内側に下駄箱を積み上げた。
「開けてくれ…助けてくれ…」、扉を叩く悲壮な叫び。皆、耳を塞ぎ、神仏を拝んだ。
しばらくして、扉を叩く音が途絶えた。
力尽きた人たちの後から、後から、扉の前に人が積み重なり、熱風で焼死していった。
「がやがや」する声に目覚めた。窓の外は朝日が差している。
校庭に積んであった古材は、跡形もなく燃え尽き、校舎の入り口には、真っ黒な塊が山になっている。
「何だろう」と窓にすり寄ると、それは30人ほどの焼死体の大きな塊だった。
衣服は燃え尽き、髪は焼け、皮膚はどろどろに溶け、焼けただれ、顔もどこが口だか鼻だか、原型をとどめない。手も足も引きつって、
人間の最後の苦悶の表情を呈している。
このような地獄絵を、13歳の私が見たのです。
私は人間の気丈さをつくづく感じました。平常なら失神してしまうでしょう。
悲しくて涙が出るのは、まだ余裕があるからで、恐ろしさで体が震えるときは、まだ震える余裕があるのです。
その時は、恐ろしくも悲しくもなく、「母さん、助かって良かった。生きていて良かった」と、母と手を握り合い、喜びの涙を流したのです。
母と私は、末の妹を預けた避難場所に向かって歩いた。
昨夜は私たちが入る余地が無いほど、人と荷車で込み合っていた避難所…一面、おびただしい数の真っ黒な焼死体が散乱している。
うつぶせになったり、のけぞったり、親が子を、家族をかばうように、幾重にも折り重なっている様は、言葉では到底表しつくせない、
気の遠くなる光景です。
「むごい」…妹由美子の安否も絶望に近く、深い悲しみが私の心を捉まえた。
(以下略)
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今の平和な世の中は、戦争で散っていった、数知れない尊い命の上に、成り立っているのです。 それを忘れることなく、次の世代に語り継いでいかなければならない。
合唱