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落語・粗忽(そこつ)の使者

■ことば遊び 「風が吹けば桶屋が儲かる」

『強風で土埃が目に入ると、目を悪くする人が増える。
目を悪くすると、角付けでもしようということになるから、三味線が売れる。
三味線の胴は猫皮だから、猫が減ってネズミが増える。
ネズミが増えれば、桶をかじって穴を開ける。すると桶屋が儲かる…』

この話、大嘘であることは、誰の目にも明らか。江戸庶民の駄洒落(ユーモア)である。狂言や落語をこよなく愛する江戸庶民。 "おかしみ"が伝わってくる。
「猫も杓子も」などの、洒落ッ気あふれる言葉文化の花が咲いた江戸時代。その遊び心は、今も脈々と生きている。

【吉村外喜雄のなんだかんだ - 161】
~ことば遊び~  「落語・粗忽(そこつ)の使者」

少しおつむの弱い主人公や、そそっかしい八っあん、熊さんを題材に、笑いを誘うのが落語。時には、極端な言い回しをしたり、 徹底して歪曲した噺ネタで客を笑わす。そのネタ噺の一つが、「粗忽の使者」だろう。

♪大名、杉平柾目正(すぎだいら まさめのじょう)の家来に、地武太冶衛門という人がいた。これが度を越した粗忽者であった。

ある日使者の大役をおおせつかり、さっそく馬を曳(ひ)かせて飛び乗ったが、
驚いて、「別当! この馬には首がない!」
『後ろ前反対で、首は後ろについております』
「おお、粗忽な馬であるな、その首切って、こちらへ付けよ…」

万事がこんな調子だが、なんとか乗馬して、本郷の赤井御門守のお屋敷に到着した。用人の田中三太夫が出迎え、 挨拶を交わすとさっそく、
『して、お使者の御口上は?』

問われた冶衛門、「暫時お待ちくだされ、使者の口上は…」と言ったきり絶句し、自分の尻をつねり始めたのである。
いぶかしんだ三太夫に、『いかがなされた』と言われ、
使者の口上を失念したと白状した。

使者に参って口上を忘れては、武士の面目が立ち申さぬ。
拙者、この場を借りて一服いたす」 
『では煙草盆を…』
「いや、そうではない、セ、切腹をいたす」
そんなことをされては迷惑である。なんとか思い出す工夫はないかと訊くと、「お力添えがあれば…」と打ち明けた。

治衛門は、幼少の頃から物忘れが激しく、そのたびに父にでん部をつねられた。「痛い!」と思うと、忘れたことを思い出すのが、 習わしになったと言うのだ。だから今もつねっているが、自分でやったのでは効果がない。

「ご貴殿、手前のでん部をつねりくれまいか」
快諾した三太夫に、「初めてお目にかかりながら、面目しだいもござらんが…」と、尻をまくって前屈みになった。
三太夫は老臣、力も弱く一向に効かない。
ついには音をあげ、当家に誰かふさわしいものを探してみようと言ったが、若者は笑い、年寄は苦い顔をするばかり。

この窮状を救わなければと名乗り出たのが、大工の留公である。
"閻魔(えんま)"と呼んでいる、ペンチの親玉のような釘抜きを使おうというのである。
職人であることが知れるといけないので、侍の身なりをこしらえ、三太夫の苗字田中をひっくり返して、中田。
留と太夫をくっつけて、中田留太夫と名乗らせた。

見られていては出来ないからと、三太夫を隣室に退出してもらった留公、いや、留太夫は、作業に取り掛かった。
『これが尻かい、かかとみたいになっちゃってんねェ。
さあ!いくぜ、おい、どうだ!』
「おお、効き申す。…が、もそっと手荒に…。うーん、…あッ、思い出してござる」
襖(ふすま)を開けた三太夫、『して、お使者の口上は…? 』
「聞かずに参った…」



 

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