「五郎島の芋」を親戚・友人に配った。今年は出来がよく、栗のようにほこほこし
て美味しい。我が家の食卓、新米を炊いて、山で採ってきた"シバタケ"の吸い物…。
昨日はカナダ産の松茸ご飯。果物は柿にイチジク、みかん。我が家は今、秋の
味覚がいっぱい!
夏はウナギの蒲焼、秋はサンマの塩焼きが美味しい。脂ののった地のイワシを
湯にしたものを、酢醤油で戴くのもいい。冬は、寒ブリを三枚にさばいた残(骨)を、
近江町市場で仕入れてきて、粕汁にして、骨に付いた身をしゃぶる。これがなんとも
美味い! 季節折々、美味しいものを味わうときほど幸せを感じるときはない。
ところで、ウナギの蒲焼が庶民の口に入るようになったのは、江戸時代になって
から。そのウナギの調理法、関西では"腹開き"、関東は"背開き"なのはよく知
られている。
何故関東では"背開き"なのかというと、江戸は武家の町、"腹開き"は切腹を
イメージして縁起でもない。それで背開きが一般的になった…という、もっとも
らしい理由がある。
【吉村外喜雄のなんだかんだ - 100】
~ことば遊び~
「落語 目黒のさんま」
サンマは「秋刀魚」と書く。この庶民の魚サンマをネタにした落語に、あの有名な
「目黒のさんま」がある。
日本晴れの上天気なので、紅葉狩りでもしようかと思った殿様、武芸鍛錬のため
遠乗りがよろしいでしょうと言われ、下屋敷から遠くない目黒に行くことになった。
「あとへ続け! 参れッ」。家来の支度のことなど考えもしないで飛び出したので、
家来はあわてて厩(うまや)へ走って馬を引き出す始末。しかし殿様は乗馬で鍛え
ていないので、目黒に着いた頃には、尻が痛くなり、下馬しているところへ、家来
が到着した。
空腹を覚えた殿様が、弁当を持てと命じたが、火急のことで誰も持参していない。
しかし殿様は文句を言えない。文句を言えば、家来の誰かが罪を負うことになる
ので、「持参していない」と家来が言えば、「おお、さようか」と言うしかないので
ある。
そこへ、近くの農家から香しい魚の匂いが漂ってきた。家来に尋ねると、
「百姓家で焼いている、秋刀魚と申すゲス魚でございます。下民の食するもので、
殿様のお口にはとても…」とのこと。
「黙れッ、戦場へ来て腹が減っては戦ができるか! 苦しゅうない、これへ持参
いたせ」。正論である…。
家来が農家から買ってきた、焼きたての、脂の乗った旬の秋刀魚。それも遠乗り
後の空腹で、しかも野外とくる…。まずいわけがない。またたく間に残らず平らげ
てしまった。
『お屋敷へお立ち帰りののち、ここで秋刀魚を食したことは、ご内分に願います。
ご重役の耳に入りましては、我らの落ち度に相成ります』
「その方の迷惑になることならば、口外はいたさん」
口止めされてしまったが、日常の食膳に出るのは、決まって冷たい鯛ばかり。
どうしても、秋刀魚の味が忘れられない。
その後、親戚に客として招かれた。お好みの料理をお申し付けくださいと言わ
れた。この時とばかり、「ならば秋刀魚を!」と所望した。
もちろん用意などしていないので、日本橋の魚河岸に早馬を飛ばした。
脂の強い魚ゆえ、体に障っては一大事と、料理番が開いて蒸し器にかけ、小骨
を一本一本毛抜きで抜いて、ツミレにして、椀に入れて出した。
かすかに匂いはするが、そんなものが美味しいわけがない。
「この秋刀魚、いずかたより取り寄せた?」
『はい、日本橋の魚河岸にございます』
「それはいかん、秋刀魚は目黒にかぎる…」