昨年、川上さん、川人さん、そして私の三家族で立山に登った時のこと。
トップで頂上に立ったのは、中学校一年生の川上さんのお嬢さん。
脚力では自信のある私でも付いていけない。平地で大人と並んで歩けば絶対勝てない子供たちも、急な坂道だと軽々と登っていく。
私など、少し登っては一休みしないと息が切れ、体がいうことをきかない。
子供たちの体重は私の半分もない。坂道では、体重が重いほど足や膝に重力の負担がかかる。大人は、一歩一歩「どっこいしょ」 と、踏みしめながら登り降りする。なのに子供たちは、身も軽く、ヒョイヒョイと登り、そして降りていく。
【吉村外喜雄のなんだかんだ 第51号】
「野口選手が金メダルを取れたわけ」
アテネオリンピックの女子マラソン。日本時間夜中の二時スタート。
それを是非見たくて、それまでの時間、ダビングしてあった「冬のソナタ」を続けて二巻、
眠い目をこすりながら見たのを覚えている。
レースが始まる前は、英国のラドクリフ選手が金メダルの一番手。ベルリンマラソンで2時間15分台という、
とてつもない世界新記録を出している。
日本選手は、ラドクリフ選手にどこまでついていけるか、という感じだった。
ところが、ラドクリフ選手は30k地点手前で脱落してしまった。日本の代表野口選手は小さい。
身長は150cm程度だろう。いかにも細々としている。
体重はせいぜい40k前後ではないか。それに比べると、ラドクリフ選手は身長はあるし、横幅もしっかりしていて、
体重があるのは明らかである。
体長二ミリの蚤は、30cmは跳ぶ。体長の150倍は跳ぶわけだ。そこで、
DNAなどを細工して体長二mの蚤を作ったとする。この蚤は理屈から言えば300mは跳ぶはずである。
そうはならない。体重が増えた分だけ、かかる重力の負担が違うからだ。
象も平地を走らせれば結構早い。その昔、カルタゴ軍がローマ軍を、象部隊の活躍で散々なまでに破っている。ところが、
重戦車のごとき象も、坂の昇り降りとなると、そうはいかない。
勝敗を分けたのは、アテネの急な坂だった。ラドクリフは、比較的平坦なコースなら男子顔負けのスピードで突っ走れる。
だが、アテネのコースは、マラソン発祥の地マラトンから、32k地点まで延々と登り坂が続く。
起伏に富んだコースでは、体重の差がかかる重力の差となって、勝敗に影響してくる。そして、
ラドクリフ選手の途中棄権というアクシデントになった。
陸運の選考委員は、体重差によってかかる重力の負担の違いが、勝敗に影響することは十分承知していたと思う。 アテネのマラソンコースが起伏に富んでいることを加味して、体重が軽く坂道に強い、高橋選手を代表に選んでいたら、 もしかしたら、金・銀独占していたかもしれない…。
致知11月号 渡辺昇一「歴史の教訓」より抜粋