■前座
日本の古典芸能は上下関係がとても厳しい。
落語の世界も初めは"見習い"。
この間無給で、師匠の身の回りの雑務に明け暮れる。
その代わり、食事は一切師匠がみる。
見習いを終えると名前を貰い"前座"として楽屋入りを許される。
一番に楽屋に入り、めくりをその日の出し物順に揃えたり、お茶の準備をしたりする。
三味線以外の鳴り物はすべて前座の担当。
落語もさることながら、太鼓の修行もやらなければならない。
高座で芸人さんが入れ替わるたびに座布団を返し、メクリをめくる。
師匠にお茶を出し、ネタ帳を見せて今まで出た噺を示す。
よく似たネタが重ならないようにするためである。
師匠が高座から降りてきたら、脱いだ着物をたたむ。
こうした裏方をこなしながら、高座に耳を傾け、合間を縫って、稽古をつけてもらう。
前座の仕事は山ほどあるが、お手当ては微々たるもの。
数年間前座を務めると、辛い辛い修行時代が終る。
"二つ目"となり、
寄席に出られる身分になる。
更に精進を重ねること十年…実力も相応と認められると、晴れて"真打"に昇進。
「○○師匠」と呼ばれるようになる。
【吉村外喜雄のなんだかんだ - 182】
~ことば遊び~ 「落語・風呂敷」
・開場を知らせる入れ込み太鼓がが「ドンドンドントコイ!…」と鳴る。
一番太鼓です。
・開演5分前に二番太鼓が叩かれる。
「お多福コイコイ、ステツクテンテン」と聞こえる。
・開口一番は"前座"が務める。
続いて"二ツ目"が演目を演じ、最後に"真打"の登場となる。
・芸人さんが入れ替わるたびに聞こえてくるのが「出囃子」。
二ツ目になると、自分のオリジナル出囃子を決めることができる。
・終演…ハネ太鼓が叩かれる。「デテケデテケ、テンデンバラバラ…」と聞こえてくる。
「落語ギャラリー60」より
貧乏長屋の住人を題材にした人情噺は、話題に事欠かない。
♪『今日は帰れないかもしれない』
そう言って出かけた亭主の留守中、新公がやってきた。
女房は、新公を上らせてお茶を出すと、そこに"帰れない"はずの亭主が帰宅。
それもへべれけ。実は、亭主は大変なやきもち焼き。
酔っ払っているうえに、新公と鉢合わせなんてしたら、どうなることやら…。
慌てた女房は、とりあえず新公を押入れに隠してしまう。
亭主が寝たら、こっそり帰せばいい。
ところが、この日に限って亭主は寝ないし、押入れの前から動こうとしない。
困り果てた女房は、お酒を買いに出てくると言って、鳶頭(とびかしら)のもとに飛び込んできた。
状況を聞かされた鳶頭は、何を思ったか、風呂敷を持って出かけて行った。
見ると、女房の言う通り、亭主は押入れの前にでんと構えて、動く気配もない。
鳶頭は、家に入って来るなり亭主に、
「ちょっと脇でごたごたを収めての帰りでね」と、思わせぶりに言う。
すると亭主は、そのもめごとの顛末を聞きたがった。よしよし、思惑どおり。
鳶頭は話始める。
***「亭主の留守中に、若いのが尋ねて来た。
そこへ亭主が急に帰ってきたので、女房は焦った。
この亭主がものすごく嫉妬深いんだ。ひとまず押し入れに…。
そう、ちょうどお前の後ろにあるような、三尺の押入れにそいつを隠したのだが、
亭主は前で頑張ってなかなか寝ない。ちょうど、今のお前みたいにな…。
その若いやつ、押入れで歳とっちゃかわいそうだろ。
仕方ないから、この風呂敷を、こういうふうにかぶせたんだ」***
と、亭主の頭から風呂敷をすっぽり。
「お前がそいつとするね…見えるか? 見えねえだろ」
鳶頭が押入れをすーっと開ける。と、そこには新公が。
「声を落として押入れに『早く出ろよっ』…て、そいつに言ってやったんだよ。
そうしたら若い男は出てきた…。
押入れを出て、玄関へそっと出て行くのを見送りながら、『忘れもんするんじゃないよ』…と、そいつに言ってやったんだよ。
ついでに『下駄間違えんなよ』とも言ってやったから、そいつは下駄も間違えず、そそくさと去って行った。」
『あぁそうか、そいつは上手く逃がしやがった』