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アメリカン・エアラインの戦略

9月15日のNHKTVニュース、デルタ航空と、ノースウエスト航空が破産し
たと報じていた。石油の高騰が業績悪化の原因という。

日本の25倍の広い国土を持つアメリカ。移動には航空機が欠かせない。
1970年代当時、アメリカには、約140社の航空会社が群雄割拠していた。
そのわずか十年後の八十年代半ばには、M&Aなどによって、大手4社と、
ハワイアン航空、アラスカ航空など、一部ローカル航空を残すのみとなった。

70年代、太平洋路線で日本におなじみの、パンナムも消えてしまった。
情報化社会の到来をいち早く察知し、顧客の囲い込みをした会社が生き残った
のです。ところが、勝ち残ったはずの大手4社、ユナイテッド航空は2002年
12月に既に破産。
現在、米国航空大手は七社。そのうち4社が破産法の下で運行するという異例の
事態に陥っている。資本主義の本場アメリカの、厳しい一面を垣間見た気がする。


【吉村外喜雄のなんだかんだ - 95】
~歴史から学ぶ~
「アメリカン・エアラインの戦略」

十数年前、情報化社会の到来に備えて、通産省の課長や、竹村健一の講演
を聴きに、東京へ何度か足を運んだことがある。
関心があったのは、インターネットの普及で、社会がどう変化していくか?  
光ファイバー普及後の未来像、インターネットビジネスの最新情報を入手する
ことでした。

当時、フランスでは、日本より一足先に、国の主導による"ミルテル"という名
の端末器が家庭に配布され、ネットによる福祉、情報提供、物販情報などを
流し始めていた。
フランスの家庭から電話帳が消えた話を聞いて、胸がときめいたものです。
当時の日本には、まだ具体的動きがなく、光ファイバー社会の到来を予測する
段階だった。以下は、そんな時に入手した情報です。

1970年代の後半、米国某航空機会社に勤務していたS氏。自ら考案した
企画書を会社に提案したが、受け入れられなかった。
当時まだ珍しかったコンピューター端末器を、旅行代理店や空港の顧客カウン
ターに設置し、情報の提供と顧客の囲い込みを武器に、 他社より優位に立と
うというものです。

成功するかどうか分らない新事業に、社運をかけて50億ドルも投資する余裕
は会社にない。S氏は会社を辞め、提案書を持って航空各社を訪れたが、
受け入れる企業は無かった。
当時中堅のローカル航空会社だった、アメリカン・エアラインを訪れたS氏。
この戦略が成功すれば、全米一の航空会社になれると、熱っぽく説き、開発費
は年5億ドル程度の、分割投資で済むと促した。

■アメリカン航空は、端末器の設置を開始した。全米、網の目のように複雑な
航空路線。東海岸から中部、西部の都市を商用で移動するビジネスマン。少し
でも早く目的地へ行きたい人。ローカル経由で時間がかかっても、安いことが
条件の客。旅行代理店や、空港窓口では、そうした顧客の要望に応えるべく、
それ相応の時間と人手を掛けていた。

顧客自ら端末器を操作し、希望する情報を引き出す。旅行代理店、顧客の双
方から、その利便性が認められた。周到な準備の後にスタートした、アメリカ
ン航空の囲い込み戦略。業績がみるみる向上していった。

他メーカーも慌てて追従した。が、人材を育成し、ソフトを開発し、端末を設置
するまで、どんなに急いでも3年はかかる。その間に先行したA・Aは、全米主
要空港のカウンター、旅行代理店などに端末機を設置し、全米の航空路線を
瞬時に閲覧できるシステムを武器に、全米に情報ネットワーク網を広げていった。

■A・Aは、次の戦術に取り掛かった。同業の航空メーカーに、「どうぞ我が社
のネットワークをお使い下さい。一回線わずか1ドル。ネットワーク設置協力
費も不要です」と、呼びかけた…。
今から多額の投資をして、端末を開発しても、主な取引先は、既に端末器が
設置され、囲い込まれてしまっている。仕方なく、A・Aのネットに参画…。

■次に採ったA・Aの戦術、航空会社をアルファベット順の閲覧方式にした。
アメリカン航空は"A・A"。画面を覗くと、最初にA・Aの路線と価格が表示さ
れる。ノースウエストは"NWA"、ユナイテッドは"UAL"。 順位はずっと下。
A・Aは、顧客獲得に有利な位置を確保した。

■A・Aは、更に有利な戦術を端末に組みこんだ。自社の航空路線価格を、
すべて他社より1ドル安になるように仕組んだことです。 開発協力費を払わず
に参画している他社、文句の言いようがなかった。

■次に採ったA・Aの戦術。他社がA・Aの端末に組み込まれたことで、他社の
価格設定内容、利用状況、経営内容など、敵の弱点を掌握できたことです。
■A・Aは、顧客増と、回線使用料収入で得た豊富な資金で、A・Aが目指す
最大の目的、全米一の航空会社になるべく、入手した他社データーを根拠に、
M&Aによる路線拡大を推し進めていった。

こうした戦術、将棋の布石のように、打つ手によって、対抗する他社がどう動
くか、その次にどんな手を打てばいいか、計画段階で既に読み込み済みだっ
たのです。
アメリカン航空が、戦略において他社に先んじて、全米一の航空機会社にな
れたのは、こうした緻密で巧妙な、S氏の戦略があったのです。

デルタ航空は、A・Aのネットワークに加わることを由とせず、デパートや
ステーション、スーパーマーケットなどに端末器を設置し、独自の囲い込み
戦略で、生き残りを図った。

■その後、世界的規模での、路線の囲い込み戦争が始まった。日本の航空
会社は、A・Aに対抗して、東南アジアの国々を一つにまとめよう工作したが、
失敗に終わり、現在アメリカ大手のネットワーク系列に入っているという。

■更にA・Aは、世界に巡らせた航空ネットワーク網の強みを生かして、新た
なる戦術を開始した。ホテル、レンタカー、お買い物、クレジットカード・保険な
ど、顧客が求めるサービス、全てにネットワーク網を構築し、自社系列に組み
入れ、ドア・ツー・ドアの、旅行中のすべてのサービスを、申し込み窓口、或い
は、インターネット上で、瞬時に情報提供・斡旋出来るようにした。

究極のロイヤルカスタマーになるべく、絶えず他社の一歩先を行く。いかなる
時も、絶対優位の位置にあることを、A・Aの経営戦略とした。
(古い記憶をたどっての情報なので、内容に間違いがありましたらお許しください)

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