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米国に商社は造れない?

■日本人が誇っていいこと 

致知四月号 牛尾治朗「巻頭の言葉」に、以下のことが書かれていました。
昨年、SARSで世界が大騒ぎした中、日本では一人の患者も発生しなかった。
衛生管理の徹底では、日本は世界に誇れる国として見直されたのです。

又、九年前の阪神大震災の際には、被災者とボランティアが見事な連携をとって、事態の収束に努めた。中でも、火事場泥棒、 略奪のたぐいが一切なかったことで、諸外国から尊敬のまなざしで見られた。
日本にしかない良さが、まだまだ沢山息づいている証しといえます。

【吉村外喜雄のなんだかんだ 第30号】
~日本人のアイデンティティー~
「米国に商社は作れない?」

日本が急成長し、国際的地位と、経済力が高まって、二十一世紀は日本の時代と言われ始めた頃のお話です。
時の大統領はジョンソン。当時の国務長官で元CIA長官のニクソン(後の大統領)に、極秘調査の指示が出された。 日本急成長の一旦を担っている、日本独自の「商社」 というものを研究し、「米国にも商社を作ってはどうか?」というものでした。

半年後に、調査結果が大統領に提出された。答えは「ノー」である。大統領から出された指示で「ノー」 の回答が出されるのは異例なことである。
大統領が「月へ行け」と言えば、総力をあげて取り組むのがアメリカ。そんな中で、 元CIAの経歴を駆使しての調査結果をもってしても、「ノー」なのである。日本には沢山ある「商社」が、 何故アメリカでは作れないと言うのか? 

何故なんでしょう? あなたも考えてみてください。

三人の猟師が山に入りました。一人は鹿を一頭、一人は兎を三羽、一人は何も採らずに戻ってきました。
農耕民族の日本の商社は、獲物を一箇所に集め、収穫の大小に関わらず労をねぎらいます。そして、 会社と社員が相応に仲良く利益の分配をするのです。勿論、何も採れなかった者にも分け前があります。
個人の売上よりも、グループの和と結束力を重視し、部署の売上として処理し、収穫物を会社と社員で仲良く分け合う、 独自の文化があるのです。日本独特の「みんな仲良く」なのです。

米国は狩猟民族の国。力のある者は、それに見合う分け前を、当然のこととして要求します。当初の契約を盾に、 鹿を採ってきた猟師は相応の分け前を主張し、兎を採ってきた猟師も一羽持ち帰ります。 何も採れなかった猟師は何ももらえません。
商社は、あらゆるモノを右から左へと動かして利ざやを稼ぐ商売。個人の能力より、組織力とチームワークが優先される。 米国のように、個人の業績に応じて、大きな報酬を支払っていたのでは、経営が成り立たないのです。

更に、米国でどうにもならない大きな理由は、日本の給与制度があった。日本の何れの商社も、 大卒者の給与を28歳まで一律に抑え、能力の差は賞与で、ほんの少し加減するやり方をしてきた。
28才になって初めて、同期入社の中から役職者(係長)が出て、給与に能力差が出始める。その間の若い人材を、 低い賃金の戦力としてフルに活用できることは、国際競争で有利に働くのです。

米国に商社が存在しない理由は、日本独自の給与制度を真似られないことです。入社後28歳頃まで、 能力に関わらず人件費を一律に低く抑え、しかもチームワークで競争に打ち勝とうとする日本独自の雇用慣習。 個人の能力を重視するアメリカでは、日本式商社経営は無理なのです。

不況が続く中、日本の会社も勤続年数に関わらず、能力第一の給与配分を重視するようになってきた。  「みんなで仲良く助け合い」 という終身雇用制度、年功序列などの日本独自の文化、雇用慣習が失われていくのに伴い、 日本古来の助け合いの精神も、失われつつあるのです。

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